【監修:You矯正歯科大阪医院院長】

「出っ歯は治したいけれど、健康な歯を抜くことには抵抗がある」— このようなお悩みは、矯正治療を検討されている方々から非常によく聞かれます。
歯を抜く矯正(抜歯矯正)と、歯を抜かない矯正(非抜歯矯正)。どちらの治療法を選ぶかによって、最終的な仕上がりや、口元の印象に大きな差が出ることがあります。
当院では、35年以上の矯正経験を持つ専門医が、非抜歯矯正に関する具体的な実現方法や詳細な内容を症例写真を交えた解説に基づき、非抜歯矯正と抜歯矯正の仕上がりの違い、メリット・デメリットについて詳しく解説いたします。
☆なぜ矯正治療には「隙間」が必要なのか?
矯正治療は、歯を動かすためのスペースがなければ歯は動きません。特に、歯並びの乱れ(デコボコ)や、出っ歯を解消するためには、動かすためのスペースを確保することが不可欠です。
1. 抜歯矯正によるスペース確保
小臼歯を抜いた場合のスペースの目安(14mm〜15mm)
一般的に、矯正のために歯を抜く場合、小臼歯など1本あたりの幅が約7mm〜8mmあります。上下左右の歯を抜いた場合、合計で14mm〜15mm程度の大きなスペースを確保することが可能です。この大きなスペースを利用することで、歯を大きく後退させたり、重度のデコボコを解消したりすることが可能となります。
2. 非抜歯矯正によるスペース確保:3つの方法
健康な歯を抜かずにスペースを作る場合、主に以下の3つの方法を組み合わせて、必要な隙間を確保していきます。
方法1:歯をわずかに削る(IPR/ディスティング)
これは、主に前歯で行われることが多い方法です。IPR(Interproximal Reduction)やディスティングと呼ばれる処置で、歯の側面をわずかに削ります。
• 削る量は、1箇所あたり0.1mmから最大0.5mm程度です。
• 前歯で最大0.5mmを5箇所削れば、合計2.5mmのスペースを確保できます。

方法2:歯列のアーチを拡大する
歯並びの悪い方の場合、多くの場合、歯列がV字型に狭くなっていることが見られます。これをU字型にアーチを広く拡大していくことで、奥歯が前へ押す力を緩和し、結果として隙間を作ることが可能です。

• この方法は、歯を削らなくてもスペースが生まれるのが特徴です。
方法3:奥歯を後方へ動かす(遠心移動)
非抜歯矯正の中で、最も難易度が高いとされる方法が「遠心移動」です。これは、奥歯を親知らずのある方向へ向かって、少しずつ後方に動かしていくことで、必要なスペースを生み出す方法です。

• 歯を削る、カーブを大きくする、奥歯を後方に動かす、これらの方法を組み合わせることで、必要な隙間が確保できれば、歯を抜かずに矯正治療を進めることが可能になります。
☆非抜歯矯正のメリットと、避けて通れない限界(デメリット)
「健康な歯を抜きたくない」という思いは、特に親御さんにとって非常に強いものです。お子様が矯正をする際、「自分は抜歯矯正をしたけれど、子どもには健康な歯を抜かせたくない」と非抜歯を望まれるケースは少なくありません。
非抜歯矯正には、健康な歯を守れるという最大のメリットに加え、当院の35年以上の臨床経験に基づく、特有のメリットもございます。
◎非抜歯矯正の主なメリット
1. 健康な歯の温存
文字通り、何でもない健康な歯(2本や4本)を抜かずに治療を終えることができます。
2. 噛み合わせの改善と全身への影響
奥歯を後方に動かし、内側に倒れがちな歯を外側へ、そして垂直に立て直すことで噛み合わせが改善されます。これにより、頭痛、肩こり、首の痛みといった不定愁訴が治る方が多くいらっしゃるのが、非抜歯矯正の大きなメリットの一つだと考えています。
×非抜歯矯正の最大のデメリットと限界
非抜歯矯正は全ての症例に適応できるわけではありません。特に、仕上がりの面で、抜歯矯正に比べて劣る可能性があるのは、以下の点です。
1. 横顔の劇的な改善は期待できない
非抜歯矯正の最大の限界は、口元の引っ込められる量にあります。
• 鼻と口、顎のラインを結んだ「Eライン」など、口元全体を大きく中に入れる(綺麗な横顔を目指す)という治療は、スペース量が圧倒的に不足するため、抜歯矯正でなければ絶対に変えることができません。

• 非抜歯矯正では歯は動かせますが、その奥にある骨格自体を変えることは不可能です。歯並びだけでなく、骨格を綺麗にしたいと望む方は、無条件で抜歯矯正が必要となります。
2. 重度の症例では限界がある
デコボコや出っ歯の程度がひどい場合、削る、広げる、後ろに動かすといった非抜歯の方法ではスペースの確保に限界があります。
• 症状が重度になるほど、歯が入る量(引っ込む量)が、どうしても抜歯矯正に比べて劣ってしまう結果となります。
3. 仕上がりのリスク(出っ歯感が残る可能性)
非抜歯矯正において、奥歯の遠心移動が適切に行われなかった場合、無理やり治療を進めてしまうと、わずかに歯が出たような「出っ歯感」が残った仕上がりになる可能性が高くなります。
理想の仕上がりを実現するためのクリニック選びのポイント
奥歯を後方に動かす「遠心移動」を得意としているかの判断
歯を抜かずに矯正するという選択は、健康な歯を残せるという大きなメリットがありますが、全ての症例に適しているわけではありません。
特に「どうしても歯を抜きたくない」という強いご希望をお持ちの方が病院を選ばれる際は、そのクリニックが奥歯を後方に動かす「遠心移動」の治療を得意としているかどうかで判断されることをお勧めします。奥歯をしっかりと動かせる技術がなければ、満足のいく仕上がりにならないリスクが高まります。

抜歯・非抜歯いずれの場合も、理想的な仕上がりについて十分に納得することの重要性
抜歯矯正・非抜歯矯正のいずれを選択する場合でも、患者様ご自身が「理想的なイメージ通りの仕上がりになるかどうか」という点について、十分に納得された上で治療を進めることが重要です。
そのためにも、複数の歯科医院にご相談に行かれ、ご自身の症例にとって最適な治療法、そして予測される仕上がりについて、専門家からの意見を聞くことを強くお勧めいたします。
1965年 広島県呉市生まれ










